大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和56年(オ)313号 判決

上告人

宮川電通建設株式会社

右代表者

喜多兼昭

上告人

大興電設株式会社

右代表者代表清算人

三木幸夫

上告人

太田照行

右三名訴訟代理人

森本輝男

山本寅之助

芝康司

亀井左取

藤井勲

山本彼一郎

被上告人

富士火災海上保険株式会社

右代表者

大島隆夫

右訴訟代理人

阪口春男

望月一虎

野田雅

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人森本輝男、同山本寅之助、同芝康司、同亀井左取、同藤井勲、同山本彼一郎の上告理由について

判旨原審が適法に確定した事実関係のもとにおいて、本件事故が自賠法三条にいう自動車の運行によつて発生したものということはできないとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(宮﨑梧一 栗本一夫 木下忠良 鹽野宜慶)

上告代理人森本輝男、同山本寅之助、同芝康司、同亀井左取、同藤井勲、同山本彼一郎の上告理由

本件控訴審判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。

一、控訴審判決は、

(イ) 普通貨物自動車の荷台については「操作」ということは考えられない。

(ロ) 本件事故現場は、道路に面し、道路との境界には障壁のない空地であるが、一般通行車が出入りする事態はまず考えられない。

(ハ) 本件事故時の駐車は、駐車前後の走行との連続性に欠けている。

と認定して、本件事故は自動車損害賠償保障法(以下自賠法と略す)三条の『運行によつて』発生したものとはいえないと判示した。

その前提として本件事故は自賠法二条にいう「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」によつて発生したものといえないと判示している。

二、右判示は、本件事故が自賠法三条の『運行によつて』発生したものであるのに、そうでないとした点で判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背がある。

本件の争点は、荷卸しのため停駐車中の自動車の状態は、自賠法三条に定める自動車の『運行によつて』に該当するか否かの問題である。

荷台が車両の他の部分と区別独立して操作できるものではなくとも、荷台は貨物自動車の貨物の積載のためにあり、積載は必然的に荷卸しを予定しているから、荷卸しは自動車の運行にあたると言うべきである。

最高裁判所昭和五二年一一月二四日判決は自動車を走行停止(停車)の状態におきクレーンを操作中も自賠法二条の「自動車を当該装置の用い方に従い用いること」にあたると判決した。

同様に荷卸しのため停駐車中の自動車は、まさに当該装置の用い方に従い用いることに該当するといわねばならない。

停車も駐車も自動車の当該装置の用い方に従い停駐車しているものである。

現在の学説は、「運行」の概念を自動車の場所的移動(走行)や、装置の機械的な動き(操作)それ自体に限定せず、「車庫から車庫まで」の間の自動車の使用と認められる状態と解している。

判例タイムズ二六八号、五七頁(寺本嘉弘)

別冊ジュリストNo.四八(交通事故判例百選第二版、西垣道夫)

自動車損害賠償保償法は自動車による被害保護、被害者保護の法律である。その趣旨からも「運行によつて」の意義はできるだけ広く解釈されるべきである。

本件事案と類似の事例で自賠法三条の運行と認めた判例としては次のものがある。

大阪高裁、昭和四七年五月一七日判決(交通民集五巻三号六四二頁)

横浜地裁、昭和五三年七月一八日判決(交通民集一一巻四号一〇一七頁)

仙台高裁、昭和五四年九月七日判決(交通民集一二巻五号一一八四頁)

福岡地裁、昭和五四年一一月二六日判決(判例時報九六二号一〇六頁)

三、本件事故は、事故車に積載して運んできた古電柱を荷台から卸すため運転者がロープを取外したところその内一本が荷崩れして被害者が死亡したものである。

自動車の停車場所は道路に面した空地で(甲六号)舗装されていない凸凹のある地面の上である。

自動車運転者は、そのような状況下で停車する場合には停車して荷台のロープをとりはずしても容易に積載物が荷崩れしないように停車する義務がある、この義務を尽したことの立証義務は自賠法三条により運行供用者側(本件では保険者側)にある。本件の控訴審は、本件事故車は自賠法三条の運行に該当するものであるのに、これを該当しないとしたため、その余の判断をしなかつた。

右は判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背である。

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